
創作童話 · 7–10歳 · 保護者と一緒に読む

場面 01
稲妻ひづめのササ
「心の庭」でいちばん足の速い友だちを尋ねられたら、誰もが迷わず子鹿のササを指さしました。つやつやした茶色の毛並みに可愛い白い斑点、首に巻いた青緑の葉っぱスカーフをなびかせて走るとき、ササはまるで爽やかな一筋の春風のようでした。
「へへっ、今朝の特別な花配達はボクにまかせて!」ササは得意の身軽さでドングリ大砲を腰につけ、鮮やかな黄色と淡いピンクの花束を浅いかごに詰め込みました。
三つ数える前に庭中の友だちへサプライズ配達を終わらせてみせると、ササは自信満々に前足のひづめを鳴らしました。「風より速く、稲妻より素早く! 出発だー!」
場面 02
ドタバタ! ブレーキがきかない!
トタタタ、ドタドタドタ! ササは砂利道を力いっぱい疾走し始めました。耳元をかすめる猛烈な風の音に胸を躍らせ、ササはまるでロケットのようにスピードを上げました。
けれど、庭の小道には曲がりくねった急カーブが待っていました。遠くの門の前で、ドングリ袋を整えていたココの姿が目に飛び込んできました。
「あ、あれ? ココ、危ない! どいて!」ササはひづめを地面に突き立てて止まろうとしましたが、滑らかな砂利の上で全く止まりません!「うわあ! ブレーキがきかないよー!」

場面 03
門の前のあやうい急停止
ドゴゴゴ! 砂ぼこりと小石が四方八方に飛び散り、ササが弾丸のように突進してきました。ココは目を丸くして驚き、あわてて飛びのきました。
キキーッ、ドスン! ササは門柱のわずか1センチ手前で体をひねり、すれすれで急停止しました。舞い散った数枚の花びらが、ココの黒い鼻の頭の上にふわりと乗っかりました。
「ふう、助かった……」ササが胸をなでおろすと、呆然としていたココが息を呑みました。「ササ! 花配達かと思ったら、空から隕石が落ちてきたのかと思ったよ!」
場面 04
ごちゃまぜ花びら大混乱
大衝突はぎりぎりで免れましたが、ササのかごの中は大変なことになっていました。猛スピードで突っ走ったせいで、きれいに結ばれていたリボンが全部ほどけて絡まってしまったのです。
ココに渡すはずの鮮やかな黄色い菊と、ミミに届けるはずの可憐なピンクのバラが、めちゃくちゃに混ざり合っていました。
「うぇーん、大失敗だ! 新記録の配達だったのに、花束がごちゃまぜサラダになっちゃったよ!」ササは長い耳をしおれさせ、泣きべそをかきました。
場面 05
ゆっくりを知るミミ
そのとき、葉っぱの杖を持ったうさぎのミミが、ちょこちょこと歩いてきました。散らかったテーブルを見たミミは、怒るどころかにっこりと微笑みました。
「ササ、風のように走るのも素晴らしいけれど、お花をあつかうときは、抜き足差し足で歩く静けさが必要なのよ」
ミミはやわらかな手つきで、乱れた茎を一本ずつ拾い上げました。「そんなに落ち込まないで。一緒にゆっくり結び直してみない? 急がない時間にこそ咲く魔法があるんだから」

場面 06
そっとリボンを結ぶひととき
ササは大きく深呼吸をして、ドキドキと高鳴っていた胸を落ち着かせました。いつも前ばかり見て走っていたときには気づかなかった、穏やかな静けさが庭を包みました。
ササはひづめの先でそっと花の茎を支え、ミミはきれいなピンクのシルクリボンを持ってきて、茎の周りを優しく包み込みました。
二人は息をひそめて手を合わせ、リボンをきれいなチョウチョ結びに仕上げました。花びら一枚も傷つけないよう心を込めて整えると、乱れていた花々が前よりもずっと生き生きと輝き始めました。
場面 07
世界に一つだけの奇跡の花束
結び目が完成すると、庭にいた三人は思わず「わあ……!」と声を揃えて歓声をあげました。
黄色いお日さまの花と、優しいピンクのバラが寄り添う花束は、ササが最初に別々に抱えていたどの花束よりも華やかで美しかったのです。まるで朝の光と夕焼け空が、仲良く手をつないだようでした。
「混ざって台無しになったと思ったのに……こんなに似合うなんて!」ササの大きな瞳が感動で潤みました。

場面 08
いっしょに走り、いっしょに笑う庭
門の前で、ココとササは大きなお日さま色の花かごを一緒に掲げました。ササの疾風のような情熱と、ミミの丁寧な優しさが合わさって、庭の入口がパッと明るく輝きました。
「ササ、次はボクのラッパの合図に合わせてゆっくり行進しようね!」ココがしっぽを振って言うと、庭中が温かな笑い声に包まれました。
ササは青緑のスカーフをひるがえして笑いました。「うん! でも丘の上では、やっぱりボクがいちばん速いからね!」力いっぱい駆ける勇気と、静かに待つ優しさが重なり、心の庭にはまた一つ忘れられない思い出が満開に咲き誇りました。
物語の終わりに